冷凍庫

記憶に残った1日を記録に。新鮮保存、永遠に。

だから私は女を辞めた

 

 

 

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時々私のお店にはご飯が目的じゃないお客様がいらっしゃる。

 

私の性別は女だ。身長も低く、喉の骨が見えるぐらいは痩せている。マスクは普通サイズでは大きく感じるし、ダボっとした服を着るならMサイズで十分な本当に普通の女性。駅で5秒見渡すだけでも今の説明に当て嵌まる人は五万といるだろう。そんな私が他の女性と大きく違うのは、髪の毛がベリーショートで喋らなければ男の人に間違われる所だ。今はマスクもしている所為か、喋っても 「 お兄さん 」 なんて言われたりする。

 

私はこれを言われると、いつの間にか安心してしまうようになってしまった。特別男になりたいと思っているわけでもないのに。

 

私は都内の飲食店 ( 芸能人も良く来るような割と高いお値段の所 ) でアルバイトをしながら社会人の学校に通うフリーターで、週に4日程入っている。これは、このお店で働くようになってからそう強く思うようになった気持ちだ。それは何もお店の先輩や同期がそう思わせたのではなく、たった数時間しか顔を合わせないお客様がそう思わせてくれた。これは勿論、悪い意味で。

 

お客様は神様だ、と誰かが言っていた。誰が言い出したのかも知らない宗教の一文みたいなこの謳い文句が私は大っ嫌いだ。まるで神のように接しろと言う意味なのか何なのか、そもそも神様の正しい扱い方も知らない私にはそんな事到底無理な話だ。大体、 「 私は神だ! 」 なんて思いながら飲食店に来る人は公共交通機関に乗って此処に来ているわけだからもし本当にそうなら何ともお粗末な神様だなと思う。そんな威張れる神なんだったら筋斗雲にでも乗って飛んで来いよ。とは思いながらも勿論良いお客様もいる事は分かっているので、分母を同じにした場合どっちの方が多いかと聞かれれば圧倒的に多いのは良いお客様の方だとも思う。ただやはり、見過ごせない程には私の心を蝕むお客様もいるのだ。

 

 

そしてそれは、高確率で女性の場合が多かった。

 

 

年齢層はバラバラで仕事も連れてくる人も決まったパターンはなく、ただ共通しているのは “ 女性 ” と言う事と、 “ 必ず私が1人の時 ” にクレームを言ってくると言う事だった。

 

レジでお会計をしている時。パントリーでお通しを作っている時。オーダーを取っている時。料理を運んでいる時。バッシングをする時。ウェイティングを案内する時。飲食店は従業員が多くいるように見えて、実は1人で何かをする事の時間の方が圧倒的に多い。混雑した店内での連携は取る物の、 “ 一緒に熟す ” と言うよりは “ 一緒に動く ” と言う表現がピッタリな現場だ。1人1人は歯車であり、錆び付かぬよう止まらぬよう足を動かし脳を働かせ笑みを浮かべる。その度に何度も訪れる1人の時間が、私はいつの間にか冷や汗を掻く程に怖くなっていた。また、何か言われるんじゃないか、と。

 

コロナ不況で誰もが漠然と抱えるこの不安は、きっとコロナが収まり元の生活に戻らない限り消える事はない。そして、この生活が元に戻る事はない。新しく変わっていくしかない。今まで通り当たり前を特別に変えて、また当たり前にするしかない。私にもあるこの先どうなるんだろうと言う不安は恐らく全世界の人間にあるのだろう。そして特に都民は感染者数の増加や時間短縮営業、第二波だと騒ぎ立てるニュースや目紛しく要求されるお金により一層圧迫されているような気がする。 「 10万円 」 では満たされない程この国の人間は飢えているのだ。

 

その餌食になっているのが話題になったドラッグストアの店員や医療従事者の方達なのだろう。その一方で、歯医者や飲食業界は触れられる事がない。皆そこに危険性を見出していないから、コロナに直接関わる職業じゃないから、誰も此方側が危ないと思わない。そうやって判断された接客業の人間はどんな扱いをされるのか。

 

 

 

人間扱いなんて、されなくなった。

 

 

 

日頃の鬱憤を晴らすみたいに些細な事で文句を言われ、誰かより立場が上だと思う為だけに嫌味を言われる日々。本当に辛い。チクチクと毎日刺さる刺はランチに2000円以上使える大人に埋め込まれ、また私か…ともう慣れた諦めを手にするまでに沢山の女性に虐められて来た。

 

私を虐めても貴方の現実は変わらないのに。誰かを蔑んだって貴方は蔑まれたままなのに。誰よりも弱い立場の私を虐めてそれで何が埋まるんですか?飲食店は無料の相談所じゃありません。接客業は貴方のご機嫌取りじゃありません。自分の悩みもご機嫌もご自分で解決出来ないくせに、人に文句を言うスキルばかり上がってく日々は嫌にならないんですか?恥ずかしくないんですか?私よりも長く人生を歩んでいて、これが初めての絶望じゃないでしょう?それなのに、弱い立場を作らなければ強くなれませんか。理不尽を強いなければ理不尽に打ち勝てませんか。そんな事をしても貴方は何も変わらないのに、それで満足ですか。

 

私が、高身長で筋肉質でもっと歳が増した男性だったらどうでしたか。同じような態度を取って私の事をご自身の不満の捌け口にしていましたか。

 

だから私は、女性を辞めた。自分の性別の拘りを捨てた。私が女性だからこうなのではなく、私が弱く見えるからなのだと思う事にした。どれだけジェンダーが理解されようが、どれだけ差別を無くそうと高らかに叫ぼうが、結局私を殺したのは性別だったのだ。

 

食べ残しはするし、机は汚すし、まだテーブルについてないのに注文するけど、お客様だから、神様。神様の為の、生贄。ああ、何て素敵な神様でしょうか。

 

クソ食らえ。

 

 

 

2020.07.31-08.01